アカシアの雨にうたれて
このまま死んでしまいたい
夜が明ける 日がのぼる
朝の光のその中で
冷たくなったわたしを見つけて
あの人は涙を流してくれるでしょうか
1960年4月にリリースされたこの歌は、歌手・西田佐知子(関口宏の妻)のヒット曲である。
日本では一般的に“アカシア”といえば、明治時代に輸入されたニセアカシアのことをさす。
このニセアカシアは、和名でハリエンジュ(針槐)とも呼ばれている北米原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木で、春には白く可憐な花をつけることでも知られている。
日本の歌謡曲や童謡の歌詞で“アカシア”として歌われているのは、たいていこのニセアカシアのことだという。
西田佐知子が歌ったこの「アカシアの雨がやむとき」が誕生したのは1960年(昭和35年)。
当時の日本はいわゆる“60年安保闘争”の真っただ中。
アメリカとの間の相互協力や安全保障条約の調印を発端とした反対運動で世の中は騒然としていた。
「安保反対!!!」と叫ぶ学生やデモ隊が、各地で機動隊と衝突を繰り返す日々。
1960年6月15日、悲劇は起こった…。
暴力団と右翼団体がデモ隊を襲撃して多くの重傷者を出し、機動隊が国会議事堂正門前で大規模にデモ隊と衝突し、デモ隊の先頭近くにいた東京大学文学部4年生の樺美智子(かんばみちこ)が圧死した。
21時に開かれた国会敷地内での全学連抗議集会で訃報が報告されたことで、警察車両への放火等を行うなど一部の学生が暴徒化し、負傷学生約400人、逮捕者約200人、警察官負傷約300人に上った。
国会前でのデモ活動に参加した人は主催者発表で計33万人、警視庁発表で約13万人という規模にまで膨れ上がった。
また、浅沼稲次郎(社会党委員長)が演説中に17歳の右翼少年に刺殺されるなど、国内は大きな転換期を迎えようとしていた。
それはちょうど日本でカラーテレビの本放送がスタートした年でもあった。
そんな混沌とした年の春にリリースされたのがこの「アカシアの雨がやむとき」だった。歌に漂う挫折感と、民衆の絶望感とが重なりあって、当時この歌はあたかも“時代の歌”のように扱われたという。
しかし、この歌が誕生した経緯は安保闘争とはまったく無関係だった。
1956年に西田佐智子の名前でマーキュリーからデビューをしていた彼女は、ちょうどポリドールに移籍をして心機一転をはかり“佐知子”と改名したばかりだった。
当時、彼女の専属プロデューサーとなった五十嵐泰弘は「こんな美しい人がいるのか!というほど綺麗だった。」と、度肝を抜かれたという。
彼女のためにヒット曲を模索していた五十嵐は、ある日、仕事で名古屋に出張をした。
ぶらりと公園を歩いていると、白いコート姿の女性と男性が言い争いをしながらもめている場面に出くわした。
彼は、その光景がなぜか忘れられないまま東京に戻った。
記憶の糸をたぐり寄せながら…アメリカ人作家・F・スコット・フィッツジェラルドの短篇小説『バビロン再訪』を原作にした映画『雨の朝巴里に死す』(1954年/エリザベス・テーラー主演)のストーリーと名古屋の公園で見た場面を重ね合わせてみた。
彼はそのひらめきを作詞家の水木かおるに話し、さっそく作詞の依頼をした。
それは男と女の哀愁に満ちたやり場のない気持ち、そして悲劇的な最期を描くという設定だった。
日頃から花を愛し、家庭でも各種の花や観葉植物を育てながら「くちなしの花」「二輪草」など、花をタイトルにした作品を多く発表してきた水木は、ここで“アカシア”を選んだ。
当時、歌謡曲の世界ではタブーだった「死」という言葉。
レコード会社からの突き返しなどもあったが、プロデューサーの五十嵐は歌詞を一言一句変えることはしなかった。
出来上がった楽曲をさっそく彼女に歌わせる。
「西田に歌わせてみると、こっちが凍りつくほど上手かった!」と、五十嵐は驚いたという。
大衆音楽文化研究家の長田暁二(おさだぎょうじ)は、当時を振り返りながらこんなことを語っている。
最初、彼女自身もあんなに暗くて長い歌に抵抗感を持っていたようでした。
だけど、唄えば唄うほど不思議と味が出てきて、本人も「なんだかとてもいいわ!」と作品の良さを実感していたようでした。
ちょうどこの頃、日本には有線放送が誕生し「アカシアの雨がやむとき」は一晩に10数回かかるほどの人気となり、いわゆる有線ヒット曲の第一号となったのである。
彼女を一躍トップスターへと押し上げたこの楽曲は、当時の歌手に要求された“唄い上げる”という歌唱スタイルよりも、“唄い語る”といったニュアンスに近い新しい魅力を持った歌だった。
この歌のヒットをきっかけに、日本の歌謡曲の潮流が変わり始めたという。
それは「安保闘争」「カラーテレビ本放送のスタート」「有線放送の誕生」など、時代の潮目と何か深いところで関係していたのだろう…。
<引用元・参考文献『東京歌物語』/東京新聞編集局・編著(東京新聞出版部)>
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