それは、この曲が人前で初めて歌われた日の出来事だった。
「僕が歌いながら長い中間演奏でふっと後ろを振り向くと、指揮者が大きなタオルで豪快に涙を拭きながら譜面も見ないでタクトを振られている姿を見たら、なんだか胸に迫るものがあって…その後、歌うのに声が震えたりして、凄く大変だったのを憶えています。色んな人の愛に支えられて歌というのは出来上がっていくもんだなぁと、その時つくづく思いました。」
(さだまさし)
この「親父の一番長い日」は1979年10月12日に、さだまさし(当時27歳)がリリースした楽曲だ。
大ヒットとなった前作「関白宣言」の次作として、当時リリース前から多くの注目と期待を集めていたという。
妹の誕生から結婚に至る人生と、そんな娘の成長に一喜一憂する父親の姿を“妹の兄”として、そして“父親の息子”としての目線で語られたこの曲は、12分30秒という異例の長さで発表され、日本初の12インチシングルレコードとしても話題を呼んだ。
6週連続オリコンシングルランキングの1位に輝き、66.8万枚を売上げる好セールスを記録している。
もともと、この歌はリリースされる前年(1978年)の軽井沢音楽祭のために作られた楽曲だったという。
さだと編曲者の山本直純の二人が「今までになかったものを作ろう!」と、3ヶ月間も前から綿密な打ち合わせを重ねて作曲されたものだ。
音楽祭では山本指揮で新日本フィルとの共演で初演されるはずだったが、直前に山本が事情により指揮をすることができなくなり…代役で初演したのが山本と同い歳の盟友でもある指揮者・岩城宏之だった。
その軽井沢での“初演”の時、一体何があったというのだろう?
さだは、当時のことを鮮明に憶えているという。
「音楽祭に向けて、下見も兼ねて生まれて初めて訪れる軽井沢に数日間だけ滞在していたんです。曲のテーマを思案しながら散策していると…たまたま教会で行なわれていた結婚式を見かけたんです。新婦に手を貸してバージンロードを歩く親父のくしゃくしゃになった涙顔を見てるときに“あ、これだな!”と思ったんです。」
打ち合せの段階から、山本直純はさだに長い曲を作って欲しいと注文を出していたという。
「25分くらいある歌を作れ。」
さだは戸惑った。
「長けりゃいいってもんじゃありません(笑)長い曲を作るにはかなりの実力も必要です。僕の限界が12分半でした(笑)」
そして、ようやく出来上がった曲をいよいよ初演するという段階になって…さだは予想もしていなかった事態に直面することとなる。
ちょっとした“大人の事情”の責任をとるような形で山本が、直前になって音楽祭の出演を取りやめることとなる。
「俺が行くとみんなに迷惑をかけるから今年は謹慎しておくよ。」
さだは、すぐさま山本に連絡をしてこう伝えたという。
「先生、それは約束が違う!僕は先生が全国の親父を泣かしたいって言ったから色々とテーマを考えてあの歌を作ったんで…だったら僕も行かない!」
山本は興奮気味のさだをなだめるようにこう答えた。
「まさし、そんなこと言っちゃいけね〜よ!お前は行け!お前は歌え!」
さだは内心納得のいかない気持ちのまま軽井沢に向かった。
いよいよ明日初演という日の晩に、さだが宿泊先のコテージで一人読書をしていたときのことだった。
「夜の9時半頃…誰かが扉をトントンと叩く音がして、開けてみると、岩城宏之先生が玄関口で一人で立ってらしたんです。」
「こんばんは〜岩木です!」
「岩城先生、どうされたんですか?」
「ちょっといいかな?」
「どうぞどうぞ、中に入って下さい!先生ビール召し上がりますか?」
二人はビールを注いだグラスを傾けながら話を始めた。
「色々な事情で…明日は山本直純が来られません。代わりに私が来ました!あなたには不本意かもしれませんが…」
「いやいや、僕はそんなつもりはないですよ!」
「さださん、あなたがギター1本で歌っているあのテープを聴きましたよ。私は好きです!いい歌だと思います。直純と二人で聴きました。そしたら直純がね、これからアレンジをするって言うんです。私はね、さださん、直純に言ったんです。“いいか直純、なんにも手を加えるな!触れば触るほどこの曲はダメになる”ってね。ところが彼には彼の責任があったんだね…。今日スコアを見ました。ゴチャゴチャと彼が書いてきました。でもね、さださん…私は今夜あなたにこれを伝えにきたんです。」
さだは、本番前夜にわざわざ岩城が自分に“伝えにきた”その言葉に耳を澄ました。
「このスコア…山本直純がゴチャゴチャと書き込みましたが…。」
「はい、僕も確認しております。」
「いいですか、さださん、このアレンジは山本直純“一世一代”の名アレンジですよ!!!私は感激しました!!!私はそれを言いたくて今夜あなたを尋ねました。さださん、明日!頑張りましょう!」
二人の音楽家の友情。
そして楽曲やアレンジに対する純粋なリスペクト。
その言葉を聞いたさだは胸がいっぱいになり…翌日のステージでは、込み上げてくる涙をこらえるのに必死だったという。
<引用元:『さだまさしトークベストVol.3』2011年/ユーキャン>
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