ヤードバーズの3rdシングルとして初代マネージャー兼プロデューサーのジョルジオ・ゴメルスキーが用意したのは、ストーンズの不良性とビートルズの親しみやすさを掛け合わせたような「For Your Love」というポップナンバーだった。
この楽曲を作ったのは、60年代のブリティッシュ・ポップ界で活躍していたソングライター、グレアム・グールドマンという男である。
彼は後に10ccのベーシストとしても活動し、同バンドの最大のヒット曲「I’m Not in Love」の作曲も(共作者として)手掛けている。
当時グールドマンは、自身が在籍しコロムビアと契約していたバンド、モッキンバーズで同曲のレコーディングを済ませていたのだが、ヤードバーズへの楽曲提供が決まったため、急遽リリースを取り止めた。
それだけでなく、実は当初この楽曲はヤードバーズではなくビートルズに提供しようと考えていたのだという。
グールドマンは、あるインタビューで当時のことをこん風に振り返っている。
「ソングライティングに関して言えば、ビートルズは自分達でうまくやっていた。
そこで、出版社の友人に話を持ちかけたら、代わりにヤードバーズを薦められたんだ。
彼らはどうやらブルースやR&B路線から脱して、もっとコマーシャルなものを目指しているってね。」
その頃のヤードバーズのファッションと言えば、イタリアンスーツにクールカットできめたエリック・クラプトンと、ブロンドヘアにキュートな顔立ちのキース・レルフの二人を前面に、バンド全体で“モッズスタイル”を貫いていた。
彼らにとって“記念すべきデビューの年”となった1964年も終盤に差し掛かろうとしていたある日、マネージャーのゴメルスキーがメンバーの前でモッキンバーズが録音した「For Your Love」の音源を聴かせた。
スピーカーから流れてきた曲に、クラプトンはあからさまに眉をひそめた。
ブルースやR&B路線を貫きたかった彼にすれば、ハープシコードやボンゴで“おふざけをする”のは我慢がならなかったのだ。
かと言って、彼がヒット曲を望んでいなかったわけではない。
違うタイプの楽曲でヒットを出したかったのだ。
クラプトンは後に、こんなことを語っている。
「ビートルズのクリスマスショーに出演したとき、僕らにはヒット曲がないのを思い知らされた。持ち時間が20分から30分だったから、ヒット曲で楽しませるしかなかった。
その場は何とか乗り切ったけど、バンドが生きのびて金を稼ぐためには大衆受けを狙わなければならないことを痛感したよ。」
当時、クラプトンが3rdシングルとしてオーティス・レディングの楽曲をリリースしたがっていたという。
「素晴らしいシングルになると思ったんだ。R&Bとソウルは人気だったし、僕らならめちゃくちゃファンキーに仕上げられるってね。」
だが結局、最終的に選ばれたのは、誰が聴いてもコマーシャルな魅力を持つ「For Your Love」だった。
その決定を聞いたクラプトンは酷くがっかりし、バンドに対して幻滅してしまった。
そんな中「もっと人気者にならないか?」と言って話を持ちかけたゴメルスキーは、本当にこの楽曲が3rdシングルのA面としてふさわしいのか?確信が持てなかったという。
そこでゴメルスキーは、レコーディングに関するプロデューサーの椅子を、結成当初から音楽面でのリーダー的存在を担っていたベーシストのポール・サミュエル=スミスに譲り渡した。
サミュエル=スミスは、当時のことをこんな風に回想している。
「あいつ(クラプトン)は“For Your Love”が大嫌いだった。他のメンバーが市場の圧力に寝返ったと思ったんだろうな。実際、その通りだったけどね…。」
その年の12月にレコーディングは決行され、翌1965年の2月には3rdシングル「For Your Love」がリリースされ、ヤードバーズは好調にチャートを昇り詰めてゆく…。
「孤立して、我慢ができなくなった。」
そう言い残して、リリースの翌月にクラプトンはバンドを去った。
彼はジョン・メイオールのブルース・ブレイカーズに安住の地を求めた。
そしてヤードバーズは新しいギタリスト探しに奔走した。
クラプトンの紹介により、当時売れっ子セッションマンとして活躍していたジミー・ペイジに依頼するが、多忙を理由に断られ、代わりにペイジから推薦されたジェフ・ベックが加入することとなった。
すでにフィードバック奏法などをマスターしていたベックは演奏面でもルックス面でも存在感を発揮しバンドの救世主となる。
良くも悪くもバンドの運命を変えることとなったこの「For Your Love」と、ベック加入後にスマッシュヒットした「Heart Full Of Soul(ハートせつなく)」により、ヤードバーズは全米でも人気を集めるバンドに成長してゆく。
一曲のリリース。
一点のゴール。
一秒のタイム。
運命を変えるきっかけとなる出来事の裏にはドラマがある。
スポーツや音楽の世界に限らず、人類や国の歴史にも言えることではないだろうか?
たった一つの選択が大きく未来を変えてしまうのかもしれない。
♪このプロモーションフィルムは、クラプトン脱退後に撮影されたもの
引用元/『ヤードバーズ〜伝説を超えた伝説』(アラン・クレイソン著、山本安見訳)東邦出版
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